展覧会会場で配布したハンドアウトには、展覧会を作る上でのキーワードを掲載していました。

展覧会のキーワード

 本展を構成するキーワードをまとめました。展覧会の出発点となったトピックや、作品を制作する上で参照した文献やリンク等を掲載しています。見る方それぞれの楽しみ方でこのハンドアウトをご使用していただければ幸いです。

 

 

 

トランスジェンダー

 2020 年、お茶の水女子大学は日本で初めてトランスジェンダーの女性(戸籍やパスポートでは男性と記載されているが女性として生きる人)の入学を開始しました。全ての学生が安心して学ぶためのガイドラインや相談窓口が新たに作られ、複数の大学がこの変革に続きシステムを見直し始めています。このニュースは、全ての女性が平等に教育を受けられるよう願ってきた人々の歓喜の声と共に、不安や反感の声を表面化するきっかけにもなりました。特にインターネット上では、トイレなど公共空間の使い方についての疑問に加え、心無い発言が多く見られるようになります。悲しいことに、その中には女性の安全を願い活動し傷ついてきた人々による声も含まれています。公共空間から誰を追い出すのかという問題ではなく、誰かにとって不便な公共空間のシステムそのものの問題について話し合う必要があるのではないでしょうか。

参考サイト:「はじめてのトランスジェンダー」https://trans101.jp

 

 

 

自分の加害性を意識することは可能か

 本展をつくる上での出発点となったテーマです。自分が受けた痛みを自覚することも大切ですが、自分が人に与えた/与えたかもしれない痛みを想像し、自覚することは簡単ではありません。自分の中に作られた強固な「普通」を常に疑い、更新していくために、人との対話は欠かせない要素かもしれません。

参考図書:『差別はたいてい悪意のない人がする見えない排除に気づくための10 章』キム・ジヘ、尹怡景翻訳2021 年大月書店

 

 

 

秋田県小児療育センター

 会場であるBIYONG POINT があるCNA 社屋は、2010 年まで秋田県小児療育センターとして機能していました。(現在は南丘にある秋田県立医療療育センターに移転しています)療育センターの建物を一部リノベーションし、現在のテレビ局オフィスとして使用している為、療育センターとして使われていた頃の名残が随所に感じられます。展示室2 にあるシャッターも、元は受付として使われていたと考えられます。

BIYONG POINT の、白く塗られた壁の向こう側には小児療育センターの壁が隠れているかもしれない。そんな想像から、私たちは壁を剥がすことにしました。隠された面を見るためには、既存の壁を破壊する必要があります。隠されたものは何なのか、覆い隠す存在とは何なのか、考えています。

 

 

 

例え話

 

「例えば、私がある映画をどうしても観たいとしましょう。しかし、その映画館には階段しかない。私は困るわけです。この例はいわゆる障害体験の一例ですけれども、階段を上れないわたしの足に問題があるんだというのが七〇年代までの考え方で、今日では障害に対するこうした古い考え方のことを、障害の「医学モデル」と言います。それに対して八〇年代は、むしろ階段だけでエレベーターを持たない映画館の側に問題があると考えるようになりました。より一般化して言えば、社会環境の側に問題があるとする。こういう考え方を障害の「社会モデル」と呼びます。つまり、建物や道具、公共交通機関や法制度といったさまざまな社会環境は、多くの場合マジョリティーにとって使いやすいようにデザインされているため、一部の人にとってはそのデザインになじめず、障害を経験することになるのだという考え方に変わっていったのです。わたしは八〇年代にこの考え方に出会って、たいへん大きな衝撃を受けました。少し大げさに聞こえるかもしれませんが、ようやく私は生きていける、と思ったことを覚えています。

それまでの私は、どんなにリハビリをしてあざをつくろうが、健常者に近づくことはあり得ず、はたして自分の将来はどうなってしまうんだろうとずっと不安だったのです。しかしこの「社会モデル」という考え方に出会って、私は自分を変えなくてもいいのかもしれないと思えたのです。環境を変えることで、他の人と同じような機会を得ることができるのかもしれない。なんとか自分の人生を暮らしていけるようになるのかもしれない。そう思えて、はじめて希望を持つことができたのです。」

 

『〈責任〉の生成-中動能と当事者研究』國分功一郎 熊谷晋一郎2020 年新曜社

pp24‒26. 熊谷のセリフより

 

 

おはなし会

 展覧会関連イベントの一つである「おはなし会」とは、普段なかなかじっくりと話せない自分の考えていることを、その場にたまたま居合わせた人とともに話してお互いの考えていることを共有する場です。日常を過ごす中で感じるモヤモヤや、本展を見て感じたことを一緒に共有しませんか?

 

日時・トークテーマ

5/7 ( 土) 13:00-15:00 「 例えば(理想の家族って?)」

5/21(土) 13:00-15:00 「例えば(明日の時間割が国数性性社だったら)」

6/4 ( 土) 13:00-15:00 「例えば(「それハラスメントですよ」って言われたら)」

6/18(土) 13:00-15:00 「例えば(天気の話をするように痛みについて話せれば)」

申し込みいただいた方から各回先着10 名とさせていただきます。そのほかにも複数関連イベントを予定しています。詳細は展覧会公式サイトをご確認ください。

  

 

 

テーブル

 食卓、カフェ、話し合いや会議の場など、大きなテーブルがある場所は、人との交流、会話の場を想起させます。展示室1の中央に置かれたテーブルは、つぎはぎだらけで不安定な状態です。テーブルを、人と人とが言葉を交わす場所として、希望の象徴としてモチーフに選びましたが、同時にその困難さも感じています。

 

 

 

お天気シート

 本展をみて感じたことや考えたこと、普段感じている痛みやモヤモヤを書いて共有する「お天気シート」を会場入口に用意しています。毎日天気が変わるように、気持ちも毎日変化します。今感じていることを文字にしてみませんか?書いていただいたシートはパーテーションに貼っていただくか、お持ち帰りいただくこともできます。

 

 

 

ステッカー

 展覧会オリジナルステッカーを制作しました。チラシにも使用した空模様をプリントしています。売上は全額ウクライナにおけるLGBTQ 支援を行なっている団体「OUT RIGHT ACTION INTERNATIONAL」へ送られます。ステッカー販売はイベント開催時やスタッフ在廊時のみ行います。お近くのスタッフにお声がけいただくか、アートセンター秋田までご連絡ください。

募金先団体詳細

Outright LGBTIQ Ukraine Emergency Fund: https://outrightinternational.org/ukraine

ダウンロード
⭐︎ビヨンハンドアウト裏.pdf
PDFファイル 508.8 KB

会場では点字によるハンドアウトも用意していました。